STEMSクリエーターの説明の時にも書かせていただきましたが、STEMSのマスタリングは独特です。ここではそのことについてもう少し詳しく話していきたいと思います。

【マスタリング】
一つのファイルではなく複数あり、それを抜き差しする。それはとても面白いですが、音を抜いたときの全体的な音圧はどうなるのでしょうか?

それはただいまの結論ではおそらく少しさみしくなるでしょう。基本的には全ての音がなっている状態でコンプレッサーやマキシマイザー、リミッターをかけて調節していきます。そのためにも全体バランスを整えるのですが、それが今回どこを基準に考えればいいのかわかりません。安易に普通にマスタリングしてそれを現場で使うとやはりどこかイメージと違うような気がします。

※ちなみにSTEMSクリエーター上ではMASTER MIXとSTEMS MIXを聴き比べることが出来ます。リリース時など、また曲はかっこよくて使いたいけどSTEMSの環境が無い人の為にMASTER MIXを生成します。ここであまりにもMASTER MIXとSTEMS MIXの間にさが生まれないためにきちんと聞き比べて調整していきます。

この事に関しては今世界中様々な所で議論がされています。TRAKTORの中にコンプレッサーを入れてリアルタイムで調節する、という案もあります。今後どうなっていくのかが楽しみな所ではありますね。

【インサートエフェクト】
次はマスタリングとは少しズレますが、特殊効果系のサウンドはどこに分類していけばよろしいのでしょうか?
例えばリバーブを使っていた場合。DAWを使用している方はわかると思いますが、エフェクトはインサート(曲の原音にかける)とAUX(曲の音の余韻にかける)とがあります。インサートの場合はこれはあまり気にしなくて良いのですが、AUXの場合別途チャンネルからリバーブだけを出力させます。そのリバーブはこの4パートのどこに入れればよいのでしょうか?

一件リバーブがかかっている音と一緒に入れればいい、と思ってしまいますが、リバーブというのはとても癖のあるエフェクトです。少し間違えると位相差が発生し、とても効きにくくなります。全体バランスで合わせたリバーブは単体で聴くとこのような要因で少し効きにくくなってしまいます。それをどう解決していけばいいのでしょうか。
こちらの問題もやり込んでいって自分の一番良い方法を選択するのが良いと思います。

【音質バランス】
曲の中にあるキック単体で聞くのとサンプルCDに入ったキックの音を聴くのとでは音色は全然違います。それはなぜかと言えば、曲を作ってそのあとマスタリングの前にミックス作業に入るからです。
音域が被らないように、聴きにくくならないように等それぞれの楽器や音にイコライザーやコンプレッサーをかけてバランスを整えていきます。
つまり実はミックスしていくと全体で聴けばかっこいいキックだけどソロにして単体で聴くとなんか変な音がする、なんてことは良くあることです。これは決して変な事ではありません。バランスを整えようとすればそうなることは当たり前なのです。
しかしSTEMSの場合はそうはいきません。いざそのまま書き出してSTEMSファイルにして現場へ持って行き、単体で聞かせたら変な音だった、なんてことがあったら最悪ですよね。

ある意味ここはある程度の妥協が必要なのかもしれません。
低音だけバンバン出してもいけないですし、高音だけパリっとさせてもいけません。慎重なバランスが必要となります。

STEMSファイルを作る時はいつでも「このパートを単体で聴いてみたらどんな音になるのか」をイメージして作っていく必要があります。これが一番重要なポイントになるのかもしれません。

【外部インサートエフェクトやハードウェアを使用する】
多くのエンジニアはDAW付属以外のエフェクトなどを使用します。代表的なものを言えば「waves」などのプラグインです。また、プロの現場になりますと外部ハードウェアに一度通してからマスタリングを行う場合もあります。アナログ本来の歪みや音質を求めるためです。
しかしながら基本的にはSTEMSではそういったことはできません。STEMSクリエーターの中でプラグインを立ち上げることは出来ないですし、あくまでもSTEMSクリエーターはマスタリングのみのソフトウェアです。お気に入りのプラグインをここで使用する事は出来ないのです。これはストレスに感じてしまう方も多いかと思います。もちろんSTEMSクリエーターでマスタリングされた音が悪いという事は決してありません。さらに限られた環境の中でより良い音を求めるのもマスタリングの楽しみ方の一つではあります。
しかしやはり個性というものはどのクリエーターも出していきたいものです。

外部ハードウェアに関しましてはコチラは使用する事は出来ます。ただ「マスタリング前」に限っての事です。4パートに書き出した後に外部ハードウェアを経由してDAWに取り込み、それをSTEMSクリエーターにインポートします。
手間ではありますが音質向上の為に必要不可欠な事です。

こういったことから現時点でのSTEMSクリエーターでは個性的なマスタリングを行う事は極めて困難な事かと思われます。ただ、これからグレードアップはしていくと思いますのでそれに期待も高まるところです。

いつかプラグインとしてSTEMSクリエーターが出来、DAWの中で操作できるようになるかもそれません。